研究者でもない人が楽器の波形を意識した時代でした

数日前、たまたま本棚を見ていたら、安藤由典著「楽器の音色を探る」(中公新書)という本を見つけました。

この本を読んだのは、多分私がまだ20代で、シンセサイザーで必死で音色を作っていた頃です。

至るところに赤いボールペンの書き込みがありました。

そのときは仕事でゲームのSEや、担当していた楽譜作成ソフトのサンプル曲の楽器音色を作っていましたので、楽器の音色にとても興味があったのですね。

今では考えられませんが、当時はDX7用のような有名シンセの音色データカートリッジが売られていましたし、キーボードの雑誌には音色の作り方講座や、音色パラメータの設定リストが掲載されていました。

NEC PC-8801に搭載された音源ボードやYAMAHA DX7のFM音源の登場で、一挙に音色エディットという行為が盛り上がったんですね。

シンセサイザーは発振器とフィルターと増幅器で音を作ります。

アナログの時代は、発振器で出力できる波形は、矩形波や三角波など数種類しかありませんでした。

それがFM音源になると、ある発振器の波形を別の発振器の波形で変調させることで、アナログシンセでは表現できない複雑な波形を作り出せるようになりました。

作り出せるとはいっても、出てくる波形は予想できないので、思い通りの音を作るのは至難の業でした。

それでも最初は、多くの人が楽器の音色のシミュレートをやっていたと思います。

私もやっていたのですが、ピアノは高域、中域、低域で音色がかなり違うことや、バイオリンのような擦弦(さつげん)楽器の倍音は複雑なこと、オルガンは音程の異なる正弦波を重ねたものであること、などを知りました。

それから数年経つと、メモリも安くなって、楽器の波形がサンプリングされたリアルな音源が普及したので、音色を作成する人は少なくなって行きます。

短い期間でしたが、研究者でもない多くの人が、楽器の波形を意識するような時代はもう来ないのではないかと思います。