ユングが治療を行った記録にアニマのような用語が出てこないことが印象的でした

昨日はユングの「心理療法の実践」(みすず書房)の最後に掲載されている、翻訳者の横山博氏と大塚紳一郎氏が書かれた「解題」から、印象に残った箇所を抜粋しました。

本文も印象に残ったところはたくさんありますが、その中の一つがユング心理学の特徴を示す「グレートマザー」や「アニマ」のような用語が出てこないこと。

このことは「解題」にも触れられていました。

昨日も書いたユングの心理療法の重要な特徴と考えられる三点、(1)個別性の重視、(2)目的論的方法、(3)弁証法的過程。その(1)個別性の重視からの抜粋です。

「すべての患者/クライエントはそれぞれ異なる治療を必要としており、私たち心理療法家はその事例においてもっとも適切な治療はどのようなものか、常に個別的に判断していかなければならないということだ。 (中略) 「アニマ」「影」などといった元型論の用語を患者の夢や絵に当てはめていったり、あるいは現実生活をまるで無視するかのようにして「イメージ」の世界ばかり取り扱っていくことが「ユング派の心理療法」だと思われていたならば、なおさら新鮮な驚きが得られるに違いない。」

(1)個別性の重視は、河合隼雄さんの心理療法関連の本にも同じように指摘されていましたし、それらの本にも「アニマ」のような用語はあまり出てこなかったように思います。

上記抜粋にあるように、心理療法家が患者さんを常に個別的に判断するためには、自分の中に数多くの引き出しを持っていなければならないわけで、その際に「アニマ」「影」のような概念が必要となる場面もあるということなのでしょう。

以前河合さんと井筒俊彦さんの対談で、河合さんが易からはアイデアをもらうというお話をされたことを書きましたが、これも「アニマ」のような用語の件と共通しているように思います。