能は室町時代に成立した芸能です。
人々の精神活動がその時代独特の文化を生み出します。
先日も書きましたが、一遍上人が広めた踊念仏の影響もあり、この時代の庶民が信仰したのは浄土宗なのだと思います。
能は庶民の娯楽である猿楽から発展したということですので、この踊念仏に少なからずイメージを重ねてしまいます。
一方で、観阿弥を後援した足利義満の室町幕府は禅宗を保護しています。
先日書いたように、能は禅との関係性も指摘されています。
さらにいえば、世阿弥は「風姿花伝」の中の一文「一切は、陰陽の和するところの境を・・・」にあるように、陰陽道の影響も受けているようです。
鎌倉幕府が成立して武士の時代になってから、朝廷に所属していた陰陽師は、民間陰陽師として庶民の間に浸透して行ったようですので、それは考えられることだと思います。
なかなかに複雑で面白いですね。
昨日ご紹介したワキ役の安田登さんは、「身体感覚で「論語」を読みなおす。」という本を書いていらっしゃいますし、「寺子屋」と題するワークショップも主催されています。
この方は元々東洋思想を研究されていたようで、易経をいつも持ち歩いているとも書かれていますので、儒学を重んじられているように感じます。
安田さんが仰るには、室町時代から一度も途切れずに続いている芸能は、世界にも例がないのではないか、ということです。
ということは、その舞台から、室町時代の人々の精神に触れることができるわけで、すごいことだなと少し感動してしまいます。